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人文通信 Vol.22 「INCUBATOR」 MARCH, 2013

現場での実践が研究に繋がる

『みんなちがってみんないい』という理念を教育の場で実現していくためには、
いろんなハードルを越えなければいけない。
それを心理学の側面からバックアップするのが道城先生の仕事であり研究だ。

取材・文 吉田 智子

3つの研究テーマ

 私の研究は発達心理学の分野になります。発達心理学には、「定型発達」と呼ばれる健常な子どもたちを対象とする研究と、なんらかの原因で障害がある子どもたちを対象とする「発達障害」の研究などがあって、私の研究は後者に属します。
 では、私の3つの研究テーマである「発達障害や特別な教育的ニーズのある子どもたちへの療育」、「学校現場におけるコンサルテーション」、「通常学級に対する学級支援およびユニバーサルデザイン」をそれぞれ説明していきましょう。
 まず、「発達障害や特別な教育的ニーズのある子どもたちへの療育」です。自閉症、アスペルガー症候群、LD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)といった発達障害はもともと先天的な脳機能の障害、つまり生まれつきです。そういった子どもたちに対して、どのように言葉や社会性を身につけていけばいいかということを研究しています。療育とは、治療と教育、2つの意味が込められています。
 発達障害がある子どもさんに対して、心理学の専門家は社会性とか言葉を教える術をお母さんたちに教えますが、それは家庭で行うことですよね?2つ目の「学校現場におけるコンサルテーション」では、幼稚園、小・中学校という教育の場で、どのようにそのような子どもたちを教えればいいのか、その教え方について専門家の立場から担任の先生に助言や指導をします。つまり、私がコンサルタントになって幼稚園や小・中学校の先生方の相談にのる、そして、先生方は私のアドバイスを自分の教育に取り入れるということです。神戸市と明石市の幼稚園、小・中学校を定期的におじゃまして、コンサルテーションの仕事をしています。
 スクールカウンセラーとどこが違うのかというと、学校に出向いて心の悩みとか不登校やいじめの問題など子どもたちの心理面のサポートをするのがスクールカウンセラーです。私が相談にのるのは、障害のある子どもたちを預かって教育面での支援を必要とする先生です。対象が違うんですね。スクールカウンセラーは部屋を訪ねてくる子どもの相談にのる。それに対して私は授業を観察して、保護者ともかかわるし、そういうところが違います。
 最後に、「通常学級に対する学級支援およびユニバーサルデザイン」です。
 最近、通常学級に発達障害をもった子どもたちが在籍するようになりました。2012年の文部科学省の実態調査では、通常学級に6.5%、行動面もしくは学習面で配慮が必要な子どもたちがいるという結果がでました。文科省はそういった子どもたちも含め、いろいろな子どもたちを一緒の場で教育する方針を打ち出しています。これを「インクルージョン教育」といいます。『みんなちがってみんないい」という金子みすゞさんの詩がありますが、あの考え方が特別支援教育のもとになっていて、これが進んでいくといじめや不登校など二次的な問題への予防にもなるだろうといわれています。すべての教育の基本だともいわれていますが、実際にそれを実現させていくのはたいへんです。だから、特別支援教育がとても重要視されています。「通常学級のユニバーサルデザイン」とは、要するに「いろんな子がいるから、授業をおもしろくしよう!」という考え方です。つまり、すべての子どもたちにわかりやすい授業づくりですね。授業がわかりやすかったらどの子たちにもいいじゃないですか、大学もそうですけどね。チョーク1本でずっとしゃべり続けられたら、わかりにくいでしょ、誰だって。だからパワーポイントを使って視覚的に示したりとか、そういう授業の工夫ですね。「どんな子どもたちにもわかりやすいような授業をしましょう」ということを現場の先生方にアドバイスしています。

私を変えた1冊の本

 心理学に興味をもつようになったのは、「自閉症だったわたしへ」(ドナ・ウィリアムズ 著)という本に出会ったのがきっかけです。高校時代、なんの授業だったか忘れましたが、たまたまこの本を手に取って発表しました。このころ「24人のビリー・ミリガン」や「FBI心理分析官」といった心理学系のノンフィクションが世間に出回って、心理学が注目されはじめ、私もお年玉を使って買って読んでたりしてたんです。それで、大学に進学するとき、心理学科を受験しましたが落ちてしまい、経済学部にはいりました。けれどやっぱり心理学を勉強したいと思って、3年次に転部し、卒業後は大学院に進学しました。
 前にも述べたように私の研究は発達障害をもった子どもたちを対象としていますが、それに取り組むようになったきっかけをお話ししましょう。
 大学院に入ったころ、指導していただいていた先生から「自閉症の男の子がアメリカから帰ってくるんだけど、道城さんはその子と家が近いから、療育に取り組んでみませんか」というお話をいただきました。取り組んでみると奥が深くて、どんどんのめり込んでいきました。そのような経験から、現在の研究がはじまっています。思い返せば、「自閉症だったわたしへ」という本に出会ったことから心理学に興味をもったわけですから、なにか運命的なものを感じますね。それから神戸市内の小学校に支援に行くようになりました。ということで、大学院の修士課程で「発達障害」にかかわるようになった私ですが、実際にそれを研究として本格的に取り組むようになったのは博士課程に進んでからです。

地域貢献を研究へつなげたい

 現在、「学校現場におけるコンサルテーション」で実際に学校に行って、子どもたちを観察して先生方にアドバイスすることを仕事としていますが、それを体系化したいと考えています。
 毎週違う学校に行ってコンサルテーションをしていると、たくさん記録は残っていくのですが、忙しくてそれらをまとめる時間がもてない。現場に行って保護者と面談して「こういう指導方法がいいですよ」とアドバイスすることは現場の先生や保護者の方のためにはなっている。確かに地域に貢献しているという手応えはあるのですが、それを自分の研究に生かしきれていない。今まで現場でやってきた仕事で得られた記録をじっくり分析して、そこからなにかを見いだす、というのが、今の私のテーマですね。

【自閉症】
脳機能の障害である発達障害のひとつ。コミュニケーション、社会性、想像力(こだわり)に問題を抱える。

【アスペルガー症候群】
脳機能の障害である発達障害のひとつ。知的障害や言語の遅れを伴わないが、自閉症の症状を示すものをさす。

【学習障害 LD(Learning Disability)】
脳機能の障害である発達障害のひとつ。全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する、推論するなど、特定の能力に困難が見られる。

【注意欠陥多動性障害 ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)】
脳機能の障害である発達障害のひとつ。不注意、多動性、衝動性を特徴とする。

道城裕貴 講師

人間心理学科 発達心理学領域 道城裕貴 講師

2006年3月、関西学院大学大学院文学研究科博士課程後
期課程心理学専攻 単位取得満期退学。
2007年3月、博士(心理学)取得(関西学院大学)。
2007年4目、関西学院大学大学院文学研究科博士研究員。
2008年4月、上越教育大学大学院学校教育研究科臨床・健康教育学系特別支援教育コース助教。
2010年4月より現職。